エコノミックニュースというところが、保育士や幼稚園教諭を対象にした調査に関する記事を書いています。記事を読む限り、どうやら、保育士などの給与は安すぎるという事が言いたいようです。1
保育士の給与が安いのは否定しません。でも、この記事の内容もずいぶんずさんであるという印象を受けました。
そこで、記事の内容を紹介しつつ、平行して記事の気になる点を指摘していきたいと思います。
この調査って、意味があるのか?
まず、今回記事で取り上げられたのか、どんな調査だったのか確認しておきましょう。
保育士の転職支援サービスを手がけるウェルクスが、保育士・幼稚園教諭らに対し「現在の年収に満足しているか」尋ねた
まず、この調査は、ウェルクスという民間の企業が行ったようです。年収に対する満足度調査という事のようですね。
調査は今年1~2月と、5~6月にかけて実施。回答者数は200人で、内訳は「保育士」が87.5%、「幼稚園教諭」が10%、「その他保育教育関連等」が2.5%だった。平均年齢は32.8歳で、女性が97%を占めている。
ここが最初に引っかかったポイントです。そもそも、サンプルは200人というのは、はっきり言って、少なすぎるでしょう。
でも、数の少なさ以上に問題な点があります。様々な職種の人をひとまとめにして調査しているのです。「保育士」だけでなく「幼稚園教諭」や「その他保育教育関連等」も含んでいるのです。
こんなふうに寄せ集めにしてしまったら、調査としては意味がありません。おそらくサンプルが集まらなかったので、保育士以外の人たちも含めてしまったのでしょうね。
実は、これ以外にも、この調査には大きな問題があります。
今回、ウェルクスが保育士らに聞いた結果では、賞与や手当を含んだ年収額の平均は「213万2500円」だった。厚労省の調査よりも約100万円少ない。派遣やパートなども含め、雇用形態や年齢で差が出た可能性もある。
これって要するに、サンプル抽出の段階で偏りがあったという事ですよね。そもそも200しかないサンプルで、偏りがある抽出をしているわけです。調査として何処まで意味があるのでしょう。
まあ、それほど大きくない企業の調査です。予算的にも能力的にも、これ以上の調査は難しかったのでしょう。
ということで、この調査に関しては、定量的な部分ではあまり意味が無いという結論で良いように思います。
ちなみに、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」という調査だと、13年の保育士全体の平均年収は「310万円」なのだとか。多分、こちらの数字を信じる方が妥当性が高そうですね。
ということで、数字に関しては厚生労働省の調査を信じることをおすすめします。
定性的な部分では興味深い点も
ということで、この調査が出してきた203万2500円という数字は、あまり意味が無いものだと思って良いでしょう。ただ、調査そのものが無意味かというと、必ずしもそうではありません。アンケートの回答に関しては、興味深い意見がかなりあったようです。
保育士たちからは、切実な声が寄せられた。「資格を持って働いているにもかかわらず、最低賃金で働いているのに不満を感じる(20代女性)」、「基本給が低いのでボーナスが出ても安い(40代)」、「出勤日数も多く、16年続けているのに手取り15万。ありえない(30代)」など、賃金の低さ、昇給の少なさを訴える声が目立つ。「持ち帰り仕事が多いので残業に反映されない(30代)」、「毎日2~3時間の残業をしているがタイムカードを切らされる(20代)」など、労働基準法違反とみられるケースもあった。
最初の3つの給料が安いという意見は、まあ、単なる愚痴ですよね。職業選択の自由があるわけですから、不満があれば転職すればいいのです。あるいは、現在の仕事を続けながら給与が増えるのを期待するなら、労組でも作って交渉すればいいでしょう。
ただ、保育士のなり手がないという社会問題として考えると、単なる愚痴とも言っていられません。何とかして保育士の給与を増やす手立てを考える必要があるでしょう。
とは言っても、お金が沸いて出るわけでは無いですからね。公的なお金を入れるとするのなら、どこかを削らないといけません。高齢者に使っているお金を少し削るのが現実的な方法だと思うのですけどね。これはこれで、政治的に難しいでしょう。選挙に積極的に行くのは高齢者ですから、政治かも彼らから飴を奪うわけには行きません。
何にしても、この部分を対処しないと、保育士の人材不足は解消しないでしょう。
その次の「持ち帰り仕事が多いので残業に反映されない(30代)」「毎日2~3時間の残業をしているがタイムカードを切らされる(20代)」という2つはもっと深刻です。労働基準法に明確に違反しているからです。
たった200のサンプルの調査でこういった意見が出てきたということは、労働基準法違反はそれほど珍しいことでは無いのでしょうね。もともと賃金が低い上に、サービス残業を強いられるわけです。もう、ブラック企業以外の何者でもないわけです。
ブラック企業という言い方は、正直に言ってあまり好きではありません。リベラル寄りの方々がこの言葉を濫用するので、何でもかんでもブラック企業にさせられてしまうからです。ただ、低賃金でサービス残業なら、さすがにブラックと言って良いでしょう。
賃金をいきなり上げるのは、まあ、それほど簡単なことでは無いでしょう。ですから、せめて違法状態はなくなるように努力して欲しいものです。まあ、従業員がそれほど多い職場で無いでしょうから、監督官庁も大変でしょうけどね。
- 保育士らの92%が「給与に不満」、理想と現実のギャップは「100万円」
エコノミックニュース 2015年6月7日 [↩]
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