給料をたくさん貰っている人は長時間労働で過労死などが多い?| 労災認定の件数で調べてみたら、そういう証拠はありませんでした

産経新聞に「年収1075万円以上の労災認定3年で73人 厚労省調査」という記事がありました。1 この記事のタイトルを最初に見たときに、一体どういう意図の記事なのかさっぱり分かりませんでした。

労災認定と書いていますから、サラリーマンの病気に関する記事であるのはわかります。労災保険に入れるのは基本的にサラリーマンだけですからね。

そして、年収1,075万円と言う数字を出していますから、高い給料を貰っている人に関する記事なのでしょう。ここまでは分かります。

でも、何で1,075万円という数字で区切ったかが分からなかったのです。キリが良いところで、1,000万円ではいけなかったのでしょうか?

もう一つ疑問だったのが、1,075万円以上の年収の人の労災認定が3年で73件と言うのが、多いのか少ないのかさっぱり分からないという点です。

1年当たりになおすと24件程度ですよね。これが特段に多いとも思えませんから、何を問題にしているのか分からなかったわけです。

「高度プロフェッショナル制度」(ホワイトカラーエグゼンプション)がらみの調査なのね

とりあえず、最初の疑問である1,075万円という数字は、記事を読むことで理由が分かりました。「高度プロフェッショナル制度」を導入するに当たり、年収1,075万円を制度対象とするかどうかの線引きに使うのだそうです。今回はその数字を基準にして調査したということです。

高度プロフェッショナル制度と言うのは、以前はいわゆるホワイトカラーエグゼンプションと呼ばれていたものですね。どんな制度なのか簡単に言うと、ホワイトカラー労働者に対する労働法上の規制を緩和・適用免除することを言います。

この仕組みでよく話題になるのは、固定給にして残業代を無くすという話でしょうか。労働時間などの裁量は労働者本人に任せて、その代わり給与は固定にしてしまうのです。これはサービス残業の助長につながると、リベラル系の政党はを問題視していますね。結構強く反発しています。

まあ何にしても、「高度プロフェッショナル制度」の導入のための下調べ的な調査だったということです。

記事のタイトルに「高度プロフェッショナル制度」関連の調査であることを書いてくれていたら親切だったのですけどね。名称が長いから、入れにくかったのでしょうか。

とりあえず、一つ目の疑問は解決です。

割合が多いかどうかはわかり辛い

ただ、もう一つの疑問に関しては、かなりわかり辛いです。もう一つの疑問と言うのは、年収が高さと労災認定件数の関係がどうなっているという点ですね。

少なくとも、記事の中に明示的な答えは載っていませんでした。調べれば分かることなので、ちゃんと調べて欲しいのですけどね。ちょっと手抜きな感じがします。

文句を言っても仕方が無いので、記事の中の数字から可能な範囲で読み解いて見ましょう。

まず記事の中で、年収1,075万円以上の人がどんな理由で労災認定されているのかが書かれています。

73人の内訳は、脳や心臓の病気は42人で認定件数954人に占める割合は4・4%。このうち病気による死亡者は27人で、多くが医師だった。仕事のストレスによる「心の病」が31人で認定件数1236人に占める割合は2・5%。自殺や自殺未遂は12人だった。

引用した箇所を整理すると、次のような感じになります。

  • 脳や心臓の病気:42人(全体の4.4%)、うち死者27人
  • 心の病:31人(全体の2.5%)、自殺、自殺未遂12人

ちなみに、記事の冒頭には「過重労働による」という但し書きが入っています。ですからもちろん、これ以外の理由で労災認定を受けている人もいるわけですね。

つまり今回は、働きすぎが原因での労災認定の話ということです。長時間労働と因果関係がありそうな労災認定者の数を調べたら73人だったという事のようです。タイトルとの関連がわかり辛い記事ですね。

さて次に、1,075万円以上の年収を稼ぐ人は、全体の中のどの程度の割合なのでしょうか。これに関しては、記事の記述から計算が可能です。

厚労省によると、全労働者は5500万人。このうち年収1075万円以上の人は186万人で、裁量労働制は66万人。

5,500万人の中の186万人という事は、年収1,075万円の人は大体全体の3.4%ということになります。この3.4%という数字は、「脳や心臓の病気」の4.4%より若干少なく、「心の病」の2.5%よりも若干多いという感じです。

ということは、高額所得者だからといって、労災認定の数が特別に多いという事ではなさそうです。調べてみたら、特に大きな問題は無かったという程度の話だと思っておけば良いのでしょうか。

ちなみに、1,075万円以上稼ぐような人は、比較的年齢が高い人が多いでしょう。だとしたら、むしろ数字としては少ないような気すらします。

この調査結果をどう活かすかは知りませんが、調べた人にとっては拍子抜けだったのかもしれません。もしかしたら、他と変わらないと言う結果が出て、一安心だったかもしれませんけどね。


  1. 年収1075万円以上の労災認定3年で73人 厚労省調査
    産経新聞 7月12日 []

スポンサードリンク

スポンサードリンク

関連した記事を読む


コメントは受け付けていません。