有効求人倍率や完全失業率が改善しても実質賃金が上がっていないから、安倍政権の雇用政策は失敗している。一部の野党政治家や左派系のジャーナリストが、このような主張をしているのを見たことがある人も多いでしょう。
でも、この批判は完全に的外れです。なぜかというと、実質賃金というのは、雇用が改善する過程ではいったん悪化するものだからです。要するに、こういう人たちは、批判のための批判をしているにすぎないのです。
実質賃金の低下は止まらないようです
厚生労働省の2015年毎月労働統計調査(速報)によると、2015年の現金給与総額は、2年連続で増加しているのだそうです。ちなみに、現金給与総額というのは、一人当たりの月平均で出される数字です。1
その一方で、実質賃金は減少しているのだとか。ネットでは、実質賃金の低下に、あいかわらず過剰に反応する人がいるようですね。
やっぱり、実質賃金が下がるというと、すごく経済政策が失敗している印象があるのでしょうね。プロパガンダで使うには、非常に便利な言葉のようです。
実質賃金が一旦下がるのは当たり前
まず理解しておきたいのが、そもそも景気回復期の傾向として、まず平均給与が減る傾向があるという点です。
なぜかというと、景気が回復する時期は、まずは仕事がない人がパートタイムなどの職につくからです。いきなり正社員は増えません。
この人たちは給与が安いので、平均という意味では下がるのです。
実際、朝日新聞の記事によると、実質賃金が下がった大きな理由は、「パート労働者の比率が増加したことなどが影響」なのだそうです。働いていなかった人が、仕事に就いたということですね。2
もう一つ注目したいのが、現金給与総額が2年連続で増加したという点です。これは、逆に言うと、3年前は減少していたということですよね。それが、2年前に増加に転じているわけです。
失業率が減って平均賃金が増えているわけですから、これは傾向としては悪いものではありません。順調そのものと言っていいでしょう。
景気回復の途中の段階にあるという理解でいいはずです。
もう少しで実質賃金が増える傾向になると予想される
ただ最終的には、実質賃金も上がっていくことが望まれます。この状態にはまだ至っていないのも事実です。
とは言え、実質賃金の増加も、そう遠くない未来に起こるかもしれません。失業率という意味では、そろそろ底だという意見があるからです。
失業率が底ということは、労働者を確保するために正規として雇用するケースが増えるはずです。ということは、理屈どおりなら、近いうちに実質賃金があがると考えられます。
逆に言うと、もう少し待って上がらなかったら、やっと批判してもいいわけです。少なくとも、実質賃金に関して今批判するのは、まだ早すぎると考えるのが合理的ですよね。
正しい方向に進んでいるのに批判をするのは、まともな判断とは思えません。メディアの煽りを真に受けない冷静さは必要でしょう。
2017年1月追記:実質賃金が上がったら雑音が消えました
2016年に入り、実質賃金も改善傾向になっています。正確に書くと、2016年1月から9月までは連続で上昇し、10月は横ばいでした。ただ、11月は物価の影響を受けて少し下がったようです。現金給与総額は0.2ポイント上がりましたが、それ以上に物価も上がったという事ですね。3
まあ、傾向としては、実質賃金も上がり始めたとみて良いでしょう。
実質賃金が上がり始めたせいか、雇用政策に関する批判はずいぶん小さくなったように感じています。実質賃金が上がっていないから、アベノミクスの雇用政策は失敗だとは、さすがに言えなくなったのでしょう。
ただ、実質賃金を使って批判をしていた人たちは、何があってもアベノミクスの成功を認められない人たちのようです。きっと新しい手段を見つけて批判をしてくるのでしょうね。
- 給与総額、2年連続増=実質賃金はマイナス続く―15年
時事通信 2016年2月8日 [↩] - 実質賃金、4年連続マイナス パート比率増加など影響
朝日新聞デジタル 2016年2月8日 [↩] - 11月の実質賃金、物価上がり減少
SankeiBiz 2017/1/7 [↩]
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