実質賃金ではなく雇用者報酬で考えよう| 実質賃金を使ってるニュースには要注意です

最近ニュースでは、実質賃金という単語を見ることが増えた気がしています。そもそも民主党かどこかが、安倍政権の経済政策を批判するために、国会の質問で使って話題になった単語ですね。

実質賃金はあまり役に立たない

しかしこの実質賃金ですが、国民の所得や個人消費について考えるときには、実はあまり役にたちません。ちょっと意外に思われるかもしれませんが、一人一人の賃金が増えているのに実質賃金が減ることがあるのです。

これはなぜかというと、実質賃金は労働者の賃金の平均を出したものだからです。一人一人の所得が増えても、平均が減ることがあるということですね。

一つ例を挙げて考えて見ましょう。

例えば景気が良くなって、無職の人の何割かがアルバイトやパートで働くことになったとします。そして今まで仕事をしていた人たちは、これまで通りに仕事を続け、賃金は変わらなかったとしましょう。

こんな場合は、結果的に、低賃金の労働者が増えることになります。そうすると、平均である実質賃金は逆に小さくなるのです。

多少景気が良くなっても、企業がいきなり正社員を増やすことはまずありません。正社員の採用は、企業にとってもリスク要因だからです。

ですから景気が回復する段階では、アルバイトの採用が増えることになります。そうすると、結果的に平均値である実質賃金が減ることになるわけですね。

今回例に使ったケースだと、これまで働いていた人は、給与が変わらないという仮定をおいています。そして、無職の人の一部は、アルバイトとは言え仕事を得ています。

それにもかかわらず、実質賃金が下がるわけです。実質賃金での議論が無意味なことがわかりますね。

新聞記者ですらわかっていない

率直に言って、経済担当の新聞記者にとっては、この程度の知識は常識であってほしいものです。しかし、必ずしもそうとはいえないようです。

例えば、安倍政権に近い立場である産経新聞でも、次のような表現を使っています。

ただ、消費の弱さの根底には「消費者のデフレマインド」(内閣府幹部)がある。27年の実質賃金は4年連続で前年割れとなり、財布のひもがなかなか緩まない。1

上に書いたように、個々人の所得の増減と実質賃金には直接の関係はありません。ですから、個人消費を議論するときに実質賃金を持ち出しても意味はありません。つまり、因果関係が無いことが平気で書かれているのです。

新聞記者ですらこの程度の知識が無いのは残念です。しかもこの記事は、山口暢彦という方の署名記事なんですよね。署名記事を書かせてもらうようなベテランでも、こういう間違いを犯すのです。

もっとも、朝日新聞や毎日新聞の場合は、実質賃金が何かをわかった上で、知らないフリをして批判に使うこともありそうですけどね。

まあなんにしても、実質賃金という単語が出てきた場合は、注意して記事を読む必要があります。時には新聞社のミスリードの可能性すらあるのです。

国民全体での賃金の合計で考えるべきです

実質賃金がダメなら、代わりにどんな数字を使って考えればいいのでしょうか。実は、雇用者報酬という便利な数字が内閣府から発表されています。

雇用者報酬というのは、簡単に言うと、雇われている人に払われた賃金などの総額です。要するに、国民が受け取った賃金の合計のようなものですね。

この数字を見れば、国民に支払われている賃金が増えているのかどうかを、正確に知ることができます。上に引用したような個人消費と絡めた議論をする場合は、この雇用者報酬を使うほうが正確な議論ができるのです。
ただ、Yahoo!ニュースなどでチェックする限り、雇用者報酬を使っている記事は多くありません。日本の新聞は大丈夫なのかと、不安になってしまいます。

まあ、あまり大丈夫ではないのでしょう。


  1. GDPマイナス成長 景気の牽引役不在、個人消費・輸出が失速
    産経新聞 2016年2月16日 []

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