アベノミクスが始まってしばらくして、実質賃金という語が話題になりました。アベノミクスが上手く言っていない証拠として、実質賃金が下がっていることを指摘したのでです。
賃金が下がると言われると、なんだかマズいことが起こっている印象ですよね。実際のところはどうなのでしょうか。
実は、実質賃金の上下を見ても、それだけで何かを言うのは難し良いのです。
実質賃金について考えてみよう
一部のマスコミと野党議員が好きな経済用語に、「実質賃金」というものがあります。この実質賃金について、少し考えてみましょう。
実質賃金とは
実質賃金というのは、物価上昇を加味した賃金のことです。もうちょっと正確に書きましょう。大辞林によると、「名目賃金を消費者物価指数で割った賃金」を実質賃金と言います。
実質賃金 = 名目賃金 ÷ 消費者物価指数
受け取る給料の額が変わらなくても実質賃金は変動する
名目賃金というのは、給与明細に書かれている月給の金額のことだと思っておけばいいでしょう。それを、消費者物価指数で割るわけですから、給料の金額が変わらなくて消費者物価指数が上がると実質賃金は下がるという関係にあります。
もちろん、逆も言えます。給料が変わらなくても物価が下がれば、実質賃金は上がります。
あるいは、給料が1年前より5%上がっても、物価が10%上がったら、実質的には給料が減ったことになりますよね。給料が増えた以上のペースで、物価が上がったわけですから。
実質賃金を使っって安倍政権を攻撃
さて、この実質賃金は、第二次安倍内閣の誕生後に、政権批判の為に使われました。結構粘り強く野党が追求していたために、本当に問題だと思っている人も多かったようです。今でも問題だと信じて疑わない人もいます。
ちなみに、これを書いている2020年時点でも、時々ニュースサイトなどで目にすることがあります。さすがに使用頻度は減りましたけどね。
例えば、Yahoo!ニュースなどで検索してみると、1か月に20前後の記事があがっているという感じです。しぶとく生き残っているという感じでしょうか。
どの点を攻撃した?
この実質賃金ですが、野党やマスコミは、どのように利用していたのでしょうか。ちょっと思い出してみましょう。
■ アベノミクスは失敗だと言いたい野党
まず、第二次安倍政権が発足し、アベノミクスが一定の成果を上げました。わかりやすいところでは株価の上昇と、雇用環境の改善でしょう。
そこで目をつけたのが、実質賃金です。「アベノミクスで雇用は改善されたと言うが、実質賃金は下がっているー」などと噛み付いたのです。
「見た目の給料は少し増えたが、私たちは本当は貧しくなった。アベノミクスは失敗だー」というのが彼らの主張です。
確かに厚生労働省が発表する実質賃金指数は下がっていましたし、なんとなく正しいことを言っていそうですよね。
実は実質賃金指数では好景気とも不景気とも言えない
ただ、この野党の主張は、あまり意味があるものとは言えません。というのも、一人一人の実質賃金が増えても、実質賃金指数が減るというようなことも起きうるからです。
一人一人の実質賃金が増えているわけですから、誰も損をしていません。それにかかわらず、実質賃金指数が下がることがあるのです。
■ 実質賃金指数の定義
これも、一つずつ見ていきましょう。まず、厚生労働省のサイトに有る、実質賃金指数の定義から。
実質賃金指数 = 名目賃金指数 ÷ 消費者物価指数 × 100
そして、名目賃金指数というのは、ある年(基準年)を100として、そこから名目賃金の平均が何倍になったかという数字のことです。例えば、基準年から10%増えたら110になるという感じです。
■ 平均を使ったトリックがある
ここで、名目賃金指数が平均であるというのが重要になってきます。実は、全員の給料が下がっていないのに、名目賃金が下がるというような事が起こりうるのです。
ちょっと極端な例を考えてみましょう。日本には3人しか人がいなかったとします。それぞれ、A、B、Cとしましょう。
昨年はCは仕事をしておらず、AとBだけが仕事をしていました。それぞれ給料は月給で40万円だったとします。この場合、名目賃金は40万円ですよね。
(40万+40万)÷2=40万
次の年はCも仕事をしました。ただ、新人なので給料は安く、AとBの半分の10万円だったとします。この場合、名目賃金は30万円になります。
(40万+40万+10万)÷3=30万
前年仕事をしていなかったCが仕事をしたために、平均が下がってしまったのです。
このように、今まで仕事をしていなかった人が安い給料で仕事を始めると、名目賃金の平均は下がります。つまり、名目賃金指数は下がるということです。
というこは、仮に物価が変動してないとすれば、実質賃金も下がることになります。給料が減らないのに実質賃金が減るケースがあるという一例が示さえました。
■ このケースでは誰も損をしていないことを確認してください
さて、このケースでは誰か損をしたでしょうか。今まで仕事をしていなかったCさんも仕事ができたわけですから、全体としてみれば誰も損はしていませんよね。状況は良くなっています。
つまり、「実質賃金の下落 = 悪いこと」という単純な図式は正しくないのです。実質賃金の下落が良いことというケースすらあるわけです。
つまり、実質賃金の下げだけを見て「実質賃金がー」となってはいけないわけです。そうなった背景を探る必要があります。
実質賃金を上げる簡単な方法
最後に、ちょっと皮肉を。
短期的に実質賃金を上げたいのなら、実は簡単な方法があります。給料が安い人を、クビにするだけで良いのです。
給料が安い人の首を切れば、名目賃金があがります。平均をとっているわけですから、当然ですよね。
そうなると、物価の大きな変動が起こらない限り、実質賃金指数も上がるでしょう。でも、これって、誰も望まない状況ですよね。
つまり、実質賃金だけをみて騒いでも、全く意味がないわけです。
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